みちのく道中

大学4年時に、九州一周・四国一周をやった。
どうせなら47都道府県ぜんぶ行こうと決めた。

 

前にも書いたが旅の目的は「移動すること」だから、一人旅がほとんどだった。

友達に付き合ってもらっても良いのだが、私は食に興味が薄くていけない。
ゆっくり食事なんていいから、コンビニのおにぎりかマックのドライブスルーで空腹を満たしながら車を運転して、1キロでも遠くへ行きたい。

 

47都道府県のラストは、青森・秋田だった。
念願だった東北新幹線に乗り青森まで北上し、レンタカーを借りた。
十和田湖を見たかった。

 

青森県秋田県にまたがる大きな湖で、世界でも珍しい「二重カルデラ湖」である。
カルデラといえば阿蘇山が有名だが、要はそれが二重になっている。

火山の地下に溜まったマグマが噴火で一気に吹き出し、空になったマグマ溜まりの天井がズボっと抜けて凹む。
そこに水が貯まるのがカルデラ湖で、2回繰り返したのが二重カルデラ湖だ。
知らずに地図を見ると、湖に半島がふたつ突き出しているだけに見える。

 

能書きは壮大だが、湖というのは実際見ると地味である。
水が貯まっているな、という景観それ以上でも以下でもない。

透明度が高くで有名な本栖湖や、大きすぎて海にしか見えない琵琶湖を除いて、あまり感動はない。
周囲が地味でも、海を見れば大なり小なり感動するのにね。湖ってなんだろうね。

 

何度でも言うが、私の旅の目的は移動することだ。
だから眼前の景色に感動しようがそうでなかろうが、問題にならない。
(できれば感動する景色が見たいけどね)

世界でも有名な二重カルデラの湖畔に立ったなと、後から地図を見て嬉しくなれればそれで良い。

 

 

さて更に秋田を南下し、高校バスケで有名な能代を通過して大潟村に入った。

またも湖。
こはちょっと不思議な場所で、かつては琵琶湖に次ぐ大きな湖だったのだが、大部分の水域は干拓によって陸地になった。
それが大潟村であり、南の方に残った湖が八郎潟だ。

戦後に人工的に作られた陸地だけあって、道路が不自然に直線で長い。
大潟村を東西に貫く県道54号線は、ひたすらに真っ直ぐで何もないから、一般道なのにみんな80km/hくらいで走っていた。
真っ直ぐな道が10kmくらい続き、自動運転じゃなくても手を離して運転できそうだった。

 

 

男鹿半島まで足を伸ばした。

秋田といえばなまはげ、と思うかもしれないが、なまはげと言う年中行事は男鹿半島の限られた地域でのみ行われる。

赤い強面の面をつけて、藁の蓑をまとったビジュアルは有名だが、面にはたくさんの種類がある。
種類というか、80くらいの地区でそれぞれ手造りしている面だから、形も素材も表情も違う。
なかには随分シンプルでやっつけ仕事っぽいのもあって、笑った。

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右の人、手抜き感が否めない。

少子化と人口減少により、本来の年中行事たる姿は残っていないようだが、ユネスコ無形文化財に登録されたこともあり、丁寧に伝承されている。

 

なまはげ館に行くまで知らなかったが、なまはげは来訪神の類だ。

来訪神とは世界中に見られる文化で、彼岸から此岸にやってくる人以外の存在のこと。
彼岸というのは死後の世界だったり、海の向こうの世界だったりする。

来訪神といえば甑島のトシドン、宮古島パーントゥが有名で、なんとなく「海の向こうからやってくるマレビト」とイメージしていた。

しかしナマハゲは海からではなく、男鹿半島中央部の真山からやってくる設定だそうだ。

山から降りてくるタイプの来訪神もいるんだな、と知ったと同時に、車で通り抜けた男鹿半島の厳しい地形が思い起こされた。
これは確かに、前近代の住民からすれば十分に彼岸だったろうな。

やはり、足を運んで気づくことは多い。